Another Garden

FEATURE

永遠のスタンダードであるトロメオ

1960年にアーネスト・ジモディとセルジオ・マンツァにより設立されたイタリアの照明メーカーアルテミデのプロダクトは、いつの時代もそれを使う人の憧れを喚起し続けてきた。 中でもトロメオは、永遠のスタンダードとして、長年愛され続けている照明だ。 デザインはイタリア人建築家でデザイナーのミケーレ・デ・ルッキ。1951年生まれで、工業製品や家具だけでなく、建築や空間の設計なとでも知られるイタリアの巨匠だ。エットーレ・ソットサスらとともに1981年に設立した伝説的なデザイン集団「メンフィス」のメンバーだったことでも知られ、現在でも世界のデザイン界の第一線で活躍する。 トロメオはそのデ・ルッキが1986年にアルテミデのために制作したもの。デ・ルッキがメンフィスでの活躍を経て、1984年に自身のデザインスタジオ「スタジオ・デ・ルッキ」を立ち上げるなど、まさにデ・ルッキの脂が乗り切ったころの作品だ。 建築やデザインにおいては、神は細部に宿ると言われるが、トロメオにも同じことが言える。

上品に磨き上げられたアルミニウムのアームが作り出す無駄のないフォルムは、素材となったアルミの軽やかな質感とともにこのランプの佇まいに軽快な印象を与えている。
ナチュラル系のワインを一人でゆっくり楽しみたい夜にもトロメオなら、上質な気分を満たしながら、豊かなひとときをもたらしてくれる。

グラスでカジュアルにワインを飲みながら読書を愉しむ。思想書で知的な世界に浸りながら、目をあげるとトロメオの機械的な細部にうっとりする。
自転車のブレーキワイヤーを思わせる、スチールテンションケーブルの張力によってアームの角度をフレキシブルに調節することができるシステムは、工業的であると同時に、どこか温かみもある革新的な美をこの照明にもたらしている。
重量のあるベースはどっしりとした安定感で、どんな時でも安心して使うことができる。

トロメオが生まれたイタリアは、戦前戦後を通じて世界に先駆け素晴らしい工業製品を生み出してきた工業デザインの先進国であり、未来思考をもったデザイン大国としても知られ、デザインで戦後のより良い暮らしを牽引してきた。
トロメオはまさにそんなイタリアのクラフツマンシップを背景に生み出されたデザインであり、名作揃いのイタリアデザインともよく馴染む。
我が家では、ブルーノ・ムナーリやエンツォ・マリなど、同じイタリア人デザイナーの名作とコーディネートをして楽しんでいる。

トロメオはその登場以来、デスクランプ、フロアランプ、ブラケット、壁付け、クリップタイプなど数々のシリーズを発表。1989年にはイタリアの歴史と権威あるデザイン賞コンパッソ・ドーロを受賞したり、世界中の美術館に収蔵されるなどまさにデザインのマスターピースである。

ミニマルなデザインは、和でも洋でもどんな空間をも上質なものにしてくれることは言うまでもない。
食卓にも作業机にも使っている円卓の上に置いてデスクライトとして使ったり、フロアに直接置いてバーを一直線にしてフロアランプとして使っている。こうすることでコンパクトな空間でも温かい明かりを灯す照明として活躍してくれるのもトロメオのいいところだ。
また、光源を壁に向けて使えば、間接照明として光の陰影を楽しむこともでき、様々なシーンで使えるから重宝している。

トロメオのもうひとつの特徴は、シェードについたバー。控え目な何気ないデザインだが、熱をもったシェードに触れることなく、光源の位置を好みの場所に変えることができる気の利いたデザイン。ほんの小さな部分だが、スムーズに明かりの位置を調節する大切な機能だ。
そんなところに工業デザインの先進国であるイタリアデザインらしい機能主義が具現化していて、唸らせる。

何気ない日常の中に美を見いだすイタリアらしいデザインで、ドイツのバウハウスが作り出した照明とともに、その後のデスクランプのひとつの基礎となったデザインといえるトロメオ。
そんな世界的な名作を身近に置き、日々の暮らしに取り入れることは、日常を本当の意味で豊かなものにすることにつながっている。

写真とテキスト=加藤孝司